Q8.離婚にまつわる強制執行について
夫婦トラブル解決のための法律Q&A
Q.08 「養育費が支払われなくなったら強制執行をして取れると聞きましたが…」
(債務名義に基づく差押えに必要な債権目録(書類)についての紹介もあり…本ページ下部)
そうですね、ある意味正しいかと思います。
離婚時に、養育費を家裁での調停で合意をしているのであれば、「調停調書」が作成されて、その書類を持っているかと思いますし、公証人役場での公正証書を持っている方もおられるかと思います(弊社では、断然家裁での調停合意を勧めています)。慰謝料や養育費がその債権ということになります。
そのような正式な債務名義を所持しているのであれば、支払いが約束通りに履行されなかったときには、管轄裁判所にお願いをして、まずは履行勧告、履行命令を出していただき、それでもダメであれば伝家の宝刀である「強制執行」をすることが可能です(強制執行前に制裁金を科す「間接強制」という申し立てもあります)。
強制執行には一度の申請で、申し立て手数料8,000円程度の費用がかかりますが、滞った分の何ヶ月か分と今後の分などをまとめて請求する形になるので、元夫の給与債権の差押さえであれば費用倒れにはなりません。
それでも強制執行は、場合によってはかなり難しいケースもあります。
というのもですね、強制執行に際しては、相手方のどの財産を差し押さえるかを申し立てる必要もあるからなんです。自分が取りたい債権は自分が調べなくてはいけません。
元夫が会社員であれば、給料の差し押さえになりますので、会社情報など数種類の書類が必要になってきますが、会社などが判明していればご自分で対応できます。難しいというお話をしたのは、離婚後に転職していたり、引っ越してしまい現住所が全くわからなかったり、事実上無職になって逃亡する夫が意外と多いために、そういったケースではそれを判明させることも大変なんですね。
給与債権以外には、車や自宅などの動産債権の差し押さえになるかもしれませんが、このような差し押さえする物件についての情報も裁判所に提出しなければなりません。これらを準備するのは、申立人であるあなたです。ここまで来たら、弁護士さんを入れた方が良いでしょう。
しかも、車や不動産の執行には、執行官費用(1人2万円ほど)などもかかる上に、売却しなければ金銭にもなりませんので、大変な手続きです(不動産の強制競売は費用が高く、請求債権額が2.000万円以内の場合は予納金60万円がかかります)。どちらかといえば、「車や自宅を取り上げられるから、きちんと払いなさい」という抑止力になるというところでしょうか。
家具や電化製品の強制執行は費用倒れになることが多く、しない方がマシです。正直言って、不動産や高級車など、しっかり売却できるあてがあるものしか有効ではありません。
弁護士を依頼してまで執行しようというのであれば、しっかりとした給与所得がある夫や財産を保有している夫に対してでないと大変かもしれません。
財産開示手続きについての情報はこちらを。 東京地方裁判所民事執行センターの解説
難しいというお話だけしてしまいましたが、必要な書類(執行文付与申請書や送達証明申請書など)の準備の仕方を解説した本などもありますし、裁判所でも教えてくれますので、ちょっと手間をかければ法律の知識がない方でも大丈夫です。
大事なのはあきらめたり、先延ばしにしたりすることではなく、頑張って自分でできることをやるということです。弁護士さんを頼まなくてもできます。
給料の差し押さえは、本人が生活に困るくらいの額を取ることはできません。給料額の4分の1くらいに収まったりします(最高2分の1まで取れるが、借金や現在の生活費を考慮したりすると大体4分の1くらいまでに落ち着いたりすることが多い)。
そもそも、養育費は夫とあなたの収入見込みしだいで決定されるものですから、何分の一という割合というよりも、年収300万の夫であれば4~5万円、年収700万円で7~9万円ほどかと思います(もちろん、それ以上を払ってくれる夫であれば子供のためにもいただいておきましょう)。ですから、まず差し押さえ額も給料額の4分の1を超えるようなことはないはずです。安心して回収していきましょう。
前項の「慰謝料の時効」でも少し触れましたが、債権には時効というものがあります。しかし、養育費は親子間の債権ですので、養育費は時効にかからずにいつまでも請求が可能です(全てというわけではありません)。
20歳を超えると過去の分は請求できないなどと言われますが、離婚時に養育費の取り決めをしていなくとも、少なくとも定期給付債権の回収として5年前(15歳からの分に当たる)にさかのぼった分を請求することが可能です。
調停や審判を経て決定されている場合は、民法168条の規定により、最初の弁済期から20年間または最後の請求から10年間行使しないときに時効消滅することになります。
協議での養育費の債権回収は時効5年、裁判所を挟んでいる場合は10年にさかのぼって請求できるということです。
以上の説明は過去の分に対する解説ですので、過去の分でなく子供が20歳になる前の今からの分の養育費請求であれば、いつでも可能です。
養育費は、子供が成長するために必要な生活費ですので、債権ではなく「義務行為」なのです。義務といっても、罰則がないために支払わずに逃げる人が多いわけですが、債務名義(調停調書、判決文、和解証書、公正証書など)があれば、執行することが可能ですので、必ず離婚時の取り決めは裁判所を挟んでしましょう。
協議離婚での「念書に署名・捺印したもの」では、個人間で交換した紙切れみたいなものですから強制執行はできません(念書では、その証明のために裁判せざるを得ない場合も出ますので注意!必ず調停か公正証書の作成をしてください)。念書でも債権の証明としては少しは役に立ちますが、結果的に相手方の合意がなければ念書での金銭の回収は難航します。
なお、消費者金融などに借金があって、慰謝料や養育費の回収が困難な相手からもお金を取る方法があります。こちらの弊社コンテンツ「借金ばかりでお金のない夫から養育費を取る方法」をご覧ください。
離婚時には、絶対にあせって離婚を決めたり、「あとで話し合おう」「絶対に約束を守る」という夫の言葉を信じたりしないでください。
離婚するということは信頼関係がなくなったことも意味しますから、残念ながら信用に値しないのです。今は養育費をもらうことよりも離婚を優先したいと思っても、あとで後悔します!常に冷静になって、ゆっくりじっくり時間をかけて自分が納得のいく解決を心がけてください。
債務名義に基づく差押えに必要な債権目録(書類)について
東京地方裁判所民事執行センターが提供している→書式←です。
ぜひ一度目を通してみてください。これは岩手県のものとは違いますがほぼ共通ですし、非常に参考になると思います。これ以外にも必要な書類はまだまだありますが、これだけを見ても何となく概略が伝わるかと思います。
そして、下記の書類が我が岩手県の盛岡家裁が紹介している書類です。給与の差し押さえが8000円くらいの費用で申請できることなどがわかると思います。
養育費や婚姻費用の未払分の他に、将来分の差し押さえをする場合(調停調書があるケース)
養育費や婚姻費用の未払分と将来分に加えて,慰謝料・解決金・財産分与等も併せて請求する場合(調停調書があるケース)
債権差押命令の申立てに必要な書類及び郵便切手の内訳
債権差押命令の申立てに必要な書類等(H26.3.31までの場合)(PDF)
債権差押命令の申立てに必要な書類等(H26.4.1からの場合)(PDF) (平成26年以降はこちらです)
財産開示の手続き
一度強制執行をかけても、さらに資産を隠していたり、虚偽の陳述などを行っていた場合、資産開示の申し立てを行い、隠し資産等を明るみにする財産開示請求も可能です。
1. 強制執行の申し立て →許可・却下
2. 実施決定、送達
3. 財産開示期日の指定、呼び出し
4. 財産目録の提出期限決定
5. 財産目録の提出
6. 出頭 →出頭せず(罰金)
7. 宣誓 →宣誓せず(罰金) 宣誓書の朗読、署名押印など
8. 陳述 →陳述せず・虚偽の陳述(罰金)
9. 執行抗告など