Q15.離婚時の財産分与について

夫婦トラブル解決のための法律Q&A

Q.15 「夫が離婚時に財産を渡さないと言ってます…」

1.財産の内訳について 2.住宅ローンの残債について 3.年金分割について

離婚の時に誰もが問題になるのが、この財産分与です。
配偶者の浮気や暴力などの原因があれば、慰謝料請求をすることができますが、そういった原因のない方も、ある方も、この財産分与は誰もが関係のある話です。

夫婦が離婚する場合に、夫婦間の財産は半分半分に分けて貰う権利があります。浮気などの不法行為に関係なく、少なくとも半分を貰えます。しかし、実態としては、離婚原因や、実際の財産、家庭環境、離婚後の生活状況など、皆さんのそれぞれの事情によって異なるものです。
夫の「俺が稼いできた金なんだから、財産分与は俺が決める権利がある」とか、「この家は俺が建てて、俺の名義なんだから俺の物だ」という発言は正しいものではありません。

ここは探偵社のサイトですので、「性格の不一致」などの理由で離婚される方が閲覧しているケースは少なく、配偶者の不貞行為などに悩んで閲覧している方々がほとんどですので、その前提で話を進めます。

 

1.財産の内訳について

a.共有財産

婚姻中に購入された家具や家電など。専業主婦で収入がなくても、夫の働きを内助の功で支えたわけですから、夫の財布から購入した家電などであっても、夫婦間の財産は共有財産になります。

b.実質的な共有財産

夫名義の預貯金・自宅・車・退職金であっても、妻の内助の功で家庭が成り立っていたと判断されますので、妻の寄与分が認められ、共有財産と見なされます。しかし、これは微妙な面もあって、妻が家事もせずに遊んでいて寄与分を求めても、説得力がありませんので、全てが共有財産と認められるかどうかはケースバイケースとなります。

c.特有財産

夫婦が結婚前から形成していた個人の財産などのことです。独身時代に貯めていた預貯金や貴金属、婚姻中であっても親の死去による相続などは共有財産ではなく、それぞれの財産となります。よって、この特有財産は財産分与の対象となりません。
しかし、特有財産であっても、離婚に至る不法行為などがあれば、慰謝料請求の支払い分になったりと、総合的な事情により、相手方からお金をいただけることにはなりますので、資産調査というのも時には必要になるでしょう。。

そもそも、その夫婦の財産は、上記の内訳の通り、結婚後のほとんどが「共有財産」というものであり、例えば夫名義の預貯金も、妻名義の預貯金も、婚姻後の預貯金は基本的には夫婦の共有財産です。ですから、どちらの名義であろうと、離婚時にはそれを出し合い、分けなければなりません。
離婚時にすんなりと話し合いが成立する人ばかりではありませんので、納得がいかない場合は家裁に離婚調停を申し立てましょう。家裁を挟んでの話し合いができますし、成立時には「調停調書」という裁判の判決と同等の文書を発行してもらえますので、強制的に回収することも可能となります。


ここでまた問題となるのは、夫婦の借金も財産分与の対象になるということです。つまり、マイナスの資産です。
借金がある場合は、その借金も含めて財産分与の割合を決めなければなりません。

しかし、夫が消費者金融に作った借金などは、夫婦であろうと名義人は別ですので、連帯保証人になっていない限り、妻に支払いの義務はありません。

但し、婚姻中に夫が死去した場合、そのマイナスの資産も妻が引き継ぎますので、プラスの資産が多ければその中から支払いをして完済し、資産がほとんどプラスにならない場合は死亡から3ヶ月以内に裁判所に「相続放棄」の手続きを行えば、債務から逃れることができます。夫が生命保険をかけていた場合はプラスの資産となると思いますので、相続放棄をする方が損をしますので、支払いをしてください(保険金はみなし相続ということで、相続税がかかりますので、税金の計算をお忘れなく)。

重ね重ね注意していただきたいのは、死亡した夫の名義の消費者金融などの借金は支払義務は一切ないので、払わなくても良いんです。金融業者が何を言おうが支払う必要はありません。しかし、その場合、亡き夫はブラック扱いになるので、同じ住所に居住する元妻や息子のクレジットヒストリーが少々面倒なことになります。つまり、新たな借金などが認められにくい状況にもなります。多額の借金ではなく、低額の借金であれば死亡保険金などから払ってしまった方が良いこともあるのです。


2.住宅ローンの残債について

ここでお気づきの方もいらっしゃるかもしれません。
離婚時に自宅のローンが残っている場合など、どうやって財産分与するのか?ということです。

これは、あくまで協議(話し合い)や調停、裁判によって取り決めなくてはいけません。自動的に分けられるものではありません。
夫婦の共有財産から残債を支払い、その上で自宅をどちらかの財産としたり(所有権移転登記)、夫に慰謝料代わりにローンを支払わせて子供と居住を続けたりと(しかし名義人は夫のために売却される恐れも)、家族の事情によって決まるものです。話し合いが合意に至らない場合は、家裁に調停を申し立てる必要があります。いきなり裁判にはできません。

ローンの支払いの名義人を勝手に変えることもできませんので(銀行に言わず名義人を変更すれば「期限の利益喪失」で残債の一括払いか任意売却を求められる)、銀行などとの協議になりますが、妻に夫と同等の充分な収入がない限り、まず認められることはありません。よって、支払いが済むまで名義変更ができなかったり、自宅をもらっても夫の支払いが滞れば銀行に取られることになりますので、裁判所を挟んで、しっかりと合意をしなければなりません。

売却しても多額の残債が出そうなケースでは、夫婦ともに自己破産をする場合もあるのです。もしくは、共同名義の場合はどちらの名義も残したまま、居住する側がローンの支払いを続けるかです(その場合は公正証書にて、全て自分側の資産であり、他方は権利を主張しないとの確約が必要でしょう)。

夫と2分の1の共有名義で自宅を建てると、ローンがまだたくさん残っている場合は離婚時に非常に問題が生じます。売却しても残債が出ることがほとんどです。

どちらかが亡くなるまで婚姻がうまくいくのであれば、夫の単独名義で充分です。何かあったら半分は自分の財産だと思う考え方は間違っています。後年、ローンが終了していれば、純粋に半分は財産分与で自分の財産ですが、離婚後にもローンが残っていればその支払いが単独でできるはずもなく、半分ずつのマイナス資産として、離婚がマイナスからのスタートとなるために、一般の離婚よりも生活は大変になります。夫の単独名義で充分と介されます。

もし、夫が亡くなれば自動的に自分か子どもへの相続となると思いますし、最初から半分を自分名義にするメリットはほとんどないのです。
ただし共有名義でなければ夫の単独名義でローンが組めないという事情が背景にあるケースが多いので、仕方ないということもあるんですが、そういうリスクがあることを頭の隅に置いてください。

弊社的には、夫名義単独のローンで建てられる範囲の住宅建設が必要なのかなと感じます(想像以上に小さい家になったとしても、家族がいればそれで幸せなんじゃないかなぁと)。絶対に離婚がありえないという夫婦でも、ある日突然離婚が降りかかるのが現実ですから(ほとんどは夫の浮気によるもの)。

なお、離婚後に財産分与の請求をすることもできます。
離婚後の財産分与の請求の時効は2年となっていますので、お気をつけください。離婚後に話し合いに応じる人もまずいませんので、必ず離婚前にしっかり協議をしましょう。
財産額が多いケースや共有名義でかなりの残債が残るケースでは、最初から弁護士を入れることも必要になると思います。

配偶者の浮気などが原因である場合には、この財産分与と慰謝料を合わせて考慮されることが多く、慰謝料的財産分与と言われたりします。

慰謝料という交渉条件を突きつけて、財産分与の協議を有利にする必要もあるでしょうし、配偶者の不法行為による離婚であれば、その証拠を取って、しっかり自分の権利を主張しましょう。特にお子さんがいる場合は、養育費の支払いの問題もありますので、夫婦間の協議ではなく、家裁の調停を利用して、調停調書を発行してもらい法的に確定させましょう(もしくは、公証人役場で公正証書を作成しましょう)。そうでなければ、必ず支払いは滞ります。

以上、浮気をした夫が財産を渡さないと言っても、貰う権利がありますので、あきらめずに調停を申し立てましょう。


3.年金分割について

夫との財産分与で近年増えたのが、この年金分割です。
これは夫婦が婚姻していた期間の厚生年金分について、2分の1まで分割請求できる制度です。

これは離婚調停の時に、慰謝料や財産分与と共に請求することができますが、その際には事前に社会保険事務所で「年金分割のための情報提供請求書」を提出し、夫の厚生年金額を確かめておく必要があります(総額、按分割合、期間などが提供される)。厚生年金については社会保険事務所に、公務員の場合は各公務員共済組合に、私立学校教員は事業団に提出します。

調停でなくとも、夫と円満に協議ができる場合は、合意分割といって、按分の取り決めをし、公正証書により確定させることもできます。
按分が確定すれば、社会保険事務所に「標準報酬改定請求」を行います。

年金分割も財産分与の時効と同じ時効が適用され、請求の時効は2年となります。離婚後でも一応請求は可能ですが、離婚前に決めましょう。

財産分与と慰謝料をまとめて、例えば「離婚解決金」と表現し、慰謝料という言葉を使って相手方を刺激するよりも、少しでもやんわりと請求していくことも必要かもしれません。

慰謝料や財産分与、年金分割、子どもの養育費は本来妥協せずに、判例や夫婦の状況に応じてしっかりと請求していくべきですが、どれかを妥協することにより、他がしっかり合意できそうであれば、妥協もやむを得ません。例えば、慰謝料にはこだわる必要はなく、養育費と財産分与と年金分割は合意できそうであれば、慰謝料額は下げてあげることで全て合意にいたるケースもありますので、浮気の慰謝料が請求の満額ほしいと思っても、総額で得をする方が長い目で見てあきらかに得をします。そこは冷静に判断していきましょう。